理系系ニュースで「地球温暖化」と一致するもの

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東京新聞(2008年2月 9日 付)

記事:

トウモロコシなどの穀物からバイオ燃料をつくるために森林や草地を切り開いて畑にすると、温室効果ガスの排出量が数十年から数百年にわたって増えて地球温暖化を促進するとの研究結果を、米国の二つの研究チームが八日までに米科学誌サイエンス(電子版)に発表した。

二酸化炭素(CO2)の排出削減につながるとして、世界中で温暖化対策の有力な柱に据えられるバイオ燃料だが、米ワシントン・ポスト紙によると、十人の科学者グループがこれらの研究結果をもとに、ブッシュ大統領や議会幹部に政策の見直しを求める書簡を提出した。

両チームとも、土地の新規開拓で焼き払われる樹木や、耕される土壌から長期間にわたって放出されるCO2を勘案したバイオ燃料と、同量の化石燃料とで、排出されるCO2量を比較した。

プリンストン大のチームによると、トウモロコシを原料にしたエタノールの場合、三十年間はバイオ燃料の方がガソリンより二倍近くのCO2を放出。ガソリンの排出量を上回るのは百六十七年間も続くことが分かった。土地を新規開拓せずに生産したエタノールを使えば、20%の削減になった。

また、ミネソタ大などのチームによると、インドネシアの泥炭地の森林をディーゼル燃料向けのアブラヤシ畑にすると四百二十三年間、ブラジルの熱帯雨林をディーゼル燃料用の大豆畑にすると三百十九年間、それぞれバイオ燃料の方が化石燃料よりも排出量が多いとの結果が出た。

コメント:

167年後の世界は大きく変わっているはずですので、論文が正しいとすれば、バイオ燃料はCo2による地球温暖化防止には貢献しないということですね


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YomiuriOnline(2008年1月15日 付)

記事:

昨年10月、イギリスの高等裁判所がゴア元副大統領出演の「不都合な真実」の内容に対し「9カ所の部分で科学的根拠が乏しい」と注意を促す判決を出し、波紋を呼んでいる。映画「不都合な真実」といえばゴア氏がノーベル平和賞を受賞するきっかけを作り、各国の環境政策に多大な影響を与えた作品だ。今回のNMRは人類最大の難問とされている環境問題について考えてみたいと思う。

アメリカ合衆国元副大統領アル・ゴア氏が、ドキュメンタリー映画「不都合な真実」の出演により地球環境に多大なる影響を与えた個人として昨年12月、ノーベル平和賞を受賞したことは記憶に新しい。二酸化炭素の排出により進行する温暖化が地球に多大なる影響を与えると警告を鳴らす映画「不都合な真実」。しかし、この映画「不都合な真実」の内容自体に不都合が生じているのだ!

事の発端は、イギリス教育機関が公立の小中学校に教材として映画「不都合な真実」を配布しようとしたところ、生徒の親が「作品の内容に科学的にウソがある」と訴えを起こす。そして、その訴えに対し英高等法院は9つの科学的な間違いを指摘した上で教材として利用する場合、部分、部分に注釈を与えるよう指示を出したのだ。

今回のこの騒動で注目すべき点について専門家の意見を聞いてみた。

「一つは環境にうるさいEUの加盟国が出した判決だということ。もう一つはこの判決により環境問題は様々な方向から議論してかなければいけない問題だと分かったことが大きい。映画『不都合な真実』が科学的に根拠の乏しい映画だということは多くの専門家の間で知られていたこと。ただ、環境に対する問題意識を喚起する上では非常に優れた映画ともいえる。しかし作品に出てくる科学的データまで"真実"として扱われると、新たな危機が生まれてしまうのです」

そもそも、地球環境とは非常に複雑な構造の上に成り立っており「地球温暖化→南極・北極の氷が解ける→海面が上昇」というような単純な構図で解説することは不可能だという。よって映画「不都合な真実」が近い未来に必ず起こる真実として世の中に広まることに科学者たちは危機感を募らせ始めたというわけだ。

「一番の問題はあの映画の存在が巨悪を隠すということです。現在、日本でもゴミを分別したり、省エネに対する取り組みが盛んに行われていますが、実は世帯単位でいくら頑張っても環境に対する貢献は極々わずか。問題は車の排気ガスと工場プラントからの工業廃棄物。この二つに対する制限を強化するだけで排出ガスの問題はほぼ解決に近づきます。早い話、ゴミを分別するのではなく、ゴミを出さないようにしなければ意味がなく、個人ではなく政治の問題なのです」

個人がいくら頑張っても地球環境はよくならない...あまりに乱暴な専門家の意見に一瞬耳を疑ったが、実はこの意見こそ科学者たちの間ではごく一般的な共通認識とされている。

「なぜ、石油製品が減らないのか?ガソリン車が減らないのか?世界の産業構造そのものが環境を破壊しているのです。それを変えないと地球は救えません」

映画「不都合な真実」は私たちに環境危機の認識を与えた。しかし、認識するだけでは何ら解決に繋がらない。

「不都合な真実」に付きまとう不都合...それは、すべきことがわかっていながら手を出せない正義のジレンマなのだろう。

◎英高等法院が注意を促した映画「不都合な真実」の不都合な箇所

(1) 西南極とグリーンランド(の氷床)が融解することにより、"近い将来"海水準が最大20フィート上昇する。
英高等法院判決:これは明らかに人騒がせである。グリーンランド(氷床)が融解すれば、これに相当する量の水が放出されるが、それは1000年以上先のことである。

(2) 南太平洋にある標高の低いさんご島は、人為的な温暖化によって浸水しつつある。
英高等法院判決:その証拠はない。

(3) 地球温暖化が海洋コンベアを停止させる。
英高等法院判決:IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によれば、混合循環として知られるこの海洋コンベアは、鈍化することはあっても、将来停止することは可能性はかなり低い。

(4) 過去65万年間の二酸化炭素(濃度)の上昇と気温上昇の二つが正確に一致している。
英高等法院判決:この関係性については、確かにおよその科学的合意が得られているが確立されたものではない。

(5) キリマンジャロ山の雪が消失していることには、地球温暖化が明確に関連している。
英高等法院判決:キリマンジャロ山の雪の減少が主として人為的な気候変動に起因するとは確立されていない。

(6) チャド湖が乾上ったという現象は、地球温暖化が環境を破壊する一番の証拠。
英高等法院判決:この現象が地球温暖化に起因すると確立するには不十分。それ以外の要因、人口増加、局地的な気候の多様性なども考慮すべき。

(7) 多発するハリケーンは地球温暖化が原因である。
英高等法院判決:そう示すには証拠が不十分である

(8) 氷を探して泳いだためにホッキョクグマが溺死した。
英高等法院判決:学術研究では「嵐」のために溺れ死んだ4匹のホッキョクグマが最近発見されたことのみが知られている。

(9) 世界中のサンゴ礁が地球温暖化やほかの要因によって白化しつつある。
英高等法院判決:IPCCのレポートでは、サンゴ礁は適応できる可能性もある。

コメント:

不都合な真実は見ましたが、かなり恣意的なものも感じました。ただ、ノーベル平和賞をゴアが受賞した理由もそれなりに評価されるべきと思います。


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公明新聞(2008年1月 8日 付)

記事:

"科学技術立国・日本"から技術革新の波を世界に波及していくことが期待される中、世界最高性能の次世代スーパーコンピューターを2010年までに稼働させる国家プロジェクトが注目を集めている。07年3月には、開発主体の独立行政法人・理化学研究所(理研)が、「スーパーコンピューター共用施設」の建設地を神戸市中央区のポートアイランドに決定し、同市が推進する医療産業都市構想や地域企業との連携も始まろうとしている。ここでは、スーパーコンピューターが可能にする科学技術とともに、建設地・神戸市の取り組みを紹介する。

スーパーコンピューターとは、膨大な計算を素早く行うことができる高性能コンピューターのことで、その高速計算による「シミュレーション(模擬実験)」は、実際の実験や理論上の検証と並び、科学技術の発展に必要不可欠な手法となっている。

シミュレーションは再現が困難だったり、時間がかかりすぎたりする実現不可能な実験・観測をコンピューター上で模擬的に行う実験。理研は、「人間に見ることができないものを認識できるようにすること」と説明している。例えば"物が燃える"という現象は何千分の一秒という短い時間の中で複雑な化学反応を繰り返しているが、その時間を引き延ばし検証することで、より効率的な燃焼の仕方を研究し、自動車やロケットのエンジンの改良・開発に応用することができる。逆に、地球温暖化の動向や天体の動きなど長い時間をかけて変化する現象は、時間を縮め、予測することも可能となる。

シミュレーションは、より多くの情報をより速く処理できるほど精度が上がるため、スーパーコンピューターは計算速度の高速化を求めて進歩してきた。

今回、開発が進められている次世代スーパーコンピューターは、「1秒間に1京回(1兆の1万倍)の計算速度が目標」(理研)。これは、02年から04年に世界最速を誇った日本を代表するスーパーコンピューター「地球シミュレータ」の約250倍。また現在、世界一の米国製コンピューターの約30倍の速さで、世界一の性能となる見込みだ。

次世代スーパーコンピューターが完成すれば、情報量が多すぎて突き詰めることができなかった分野で、これまでの限界を突き破る科学技術の革新が期待される。特に、今回のプロジェクトでは、ライフサイエンス(生命科学)とナノテクノロジー(原子レベルでの制御技術)の発展に貢献することが大きな目標とされている。

理研によると、ライフサイエンスの分野では、人間の体全体のシミュレーションを目指すという。これは、人間を構成する分子、細胞、臓器などそれぞれの階層にまたがって総合的に人間の生命現象を捉えようとするもので、新薬の発明や医療診断などの技術革新への期待が高まっている。体中の血管と血流をシミュレーションすることで動脈硬化の発症を予測することや体質情報から個人ごとに合った薬の開発なども実現可能という。

また、ナノテクノロジーの分野では、自然科学研究機構分子科学研究所(愛知県岡崎市)が中心となり、原子一つ一つをシミュレーションし、新エネルギーの創出などを研究する。原油価格高騰の中、稲わらや建築廃材からエタノールを作るといった新技術の開発も研究の視野に入っている。

そのほかにも、新しい半導体の開発や自動車の衝突実験、原子力施設の耐震設計、台風進路や集中豪雨予測の高精度化など多彩な分野の開拓が見込まれている。

新薬、新エネルギー、半導体開発など 多彩な分野で利活用

神戸が研究・教育の一大拠点に

こうしたスーパーコンピューターの機能を十分に発揮していくために学術機関との連携強化の必要性が叫ばれる中、甲南大学フロンティアサイエンス学部(仮称)や神戸大学などが相次いでポートアイランドへの進出を決定。神戸市は、次世代スーパーコンピューター共用施設を中心とした研究・教育の一大拠点へと発展する機運が高まっている。

一方、神戸市では1998年からポートアイランドを中心に医療産業都市構想を推進している。同構想の中核施設として基礎から臨床応用までの橋渡し研究を行う先端医療センターをはじめ、神戸バイオメディカル創造センターなどが設置されており、高度な医療技術の研究・開発拠点が整備されている。構想発表から現在までに、90社以上の再生医療の研究やがんの治療法の開発を行う企業がポートアイランドに進出。今後も、製薬会社や医療機器メーカーなどの誘致が進むことが予想されている。

神戸市は、次世代スーパーコンピューターの活用で、医療産業都市構想のさらなる発展へ意欲を示しており、市医療産業都市構想推進室の三木孝室長は「ライフサイエンスで注目されるようになったが、今後、神戸が世界的な医療都市に発展できるかが焦点」と話している。また、地域の中小企業などの産業利用を促進するため、神戸市は昨年11月、次世代スーパーコンピューターの活用に関する技術相談の実施やシミュレーション研究の成果について周知を進める「財団法人計算科学振興財団」(仮称)の設立構想を発表。地域の「スーパーコンピューターとは何か。中小企業にまでメリットがあるのか」といった声に対応し、ニーズの掘り起こしを進めていく。


公明党の赤羽一嘉衆院議員と市議会公明党(米田和哲幹事長)は先月1日、理研の神戸研究所(中央区)を訪れ、次世代スーパーコンピューターの利活用や再生医療研究などについて、関係者から説明を受けた。

赤羽氏は、神戸商工会議所から要望を受け文部科学省と誘致に向け交渉してきた。また、市議会公明党は「地元経済への普及についても、超高性能のシステムそのものを使いこなすにしても人材の発掘・育成が急務」と訴えてきており、今後もこれらの課題の克服に全力を挙げることにしている。

赤羽氏は「知の一大拠点となるポートアイランドから発信される先端の情報や技術が、神戸の発展につながるよう尽力したい」と話していた。

コメント:

国家レベルでスーパーコンピューターの競争は激化していますが、地方レベルでのこういった活動への参画はありがたいですね。ただし、同時に地域へどう還元していくかが課題だと思います。


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東京新聞(2008年1月 3日 付)

記事:

初日の出とともに、京都議定書の約束期間が始まって、地球環境は大きな転機を迎えています。政府はもちろん、企業や市民も、自らを変える転機にしたい年。

インドネシアのバリ島で先月開かれた国連気候変動枠組み条約第十三回締約国会議(COP13)。国際NGO(非政府組織)の会合に研究者として参加した名古屋大学大学院教授の竹内恒夫さんは「日本は変わってないな」と、ため息をつきました。

京都議定書で温室効果ガス削減の基準年とされる一九九〇年、竹内さんは環境庁の職員でした。

同じ目標、同じ議論
そのころすでに欧州では、地球温暖化問題が重大視されていて、温暖化対策の「二〇〇〇年目標」をつくるのが、流行になっていました。

オランダで前年に開かれた温暖化と大気汚染対策の国際会議に出席し、欧州の空気に触れた上司の発案で、その年創設されたばかりの地球環境部が、「日本版二〇〇〇年目標」をつくることになりました。

資源エネルギー庁に出向した経験のある竹内さんは、主に省エネを進める視点から、そのチームに招かれました。

竹内さんたちがつくった「地球温暖化防止行動計画」は、二酸化炭素(CO2)の排出が少ない都市構造やエネルギー受給環境、ライフスタイルなどへの転換を図ることにより、二〇〇〇年の温室効果ガス排出量を九〇年と同じレベルにするという目標を掲げています。

二〇〇〇年から九年目。京都議定書で日本は、CO2の排出量を五年間で6%減らす約束だ。ところが、九〇年比でいまだにゼロにはなっていない。それどころか、6・4%も増えている-。

「電力会社もガス会社も、私たち一人一人も、いいかげん変わらないかん」と、竹内さんは考えました。

世界は動き始めています。

米国は変われるか
バリ会議では、温室効果ガス削減の数値目標など、具体的な課題はほとんど先送りにされました。

それでも「バリ」の名は、地球環境史の上に、「キョウト」と並んで深く刻まれることになるはずです。

"ポスト京都議定書"の交渉に、米国を呼び戻した成果もさることながら、世界の温暖化対策が転換点を迎えた記念すべき場所として。

「ギアチェンジ。潮目は変わり始めています」

地球環境戦略研究機関気候政策プロジェクトのシニアエキスパート、水野勇史さんの感想です。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が第四次報告書で展開した人類の危機的未来図に、政治が反応し始めたのかもしれません。

途上国グループはこれまでずっと、「削減義務は一切拒否」の姿勢を崩しませんでした。

ところがバリでは一部の国が、「途上国も行動する」という意思を初めて表明しています。

中国も、サイドイベント(関連行事)で政府に近い要人が「二〇三〇年より前に排出量のピークを設定し、そこから減らす」と明言するなど、交渉の表舞台とは裏腹の変化の兆しを見せています。

温暖化への警鐘を鳴らし続けてノーベル平和賞を受賞した米国のアル・ゴア前副大統領は、議場での特別講演で「国民が正しく判断すれば、米国も変わるチャンスはある」と訴えて、喝采(かっさい)を浴びました。

米国内では、気候安全保障法案が上院委員会を通過しました。二〇年に〇五年比で19%削減し、政府主導で排出権取引制度を創設するという野心的な内容です。

州レベルでは、東部のニュージャージー州が、五〇年に〇六年比で80%の削減を義務づけるなど、"削減競争"の様相です。

ポーランドでCOP14が開催される十二月には、次の大統領が決まっていて、その人は、京都議定書を離脱したブッシュさんではありません。民主党候補が当選すれば、議論の流れも、"ポスト京都議定書"に至る「バリ・ロードマップ(行程表)」の道筋も、一気に変わってしまうでしょう。

温暖化だけでなく、地球環境問題が転機の年を迎えています。

変わり始めた政治や政府をさらに動かす"風"になるのが、私たち一人一人の行動です。地域の小さな変革です。私たちも変わらなければなりません。

「チーム・マイナス80」に
竹内さんは、脱化石燃料、脱自動車型社会への転換により、名古屋のCO2排出量を60%減らせるという自らの試算に基づいて、昨年六月、学生と「チーム・マイナス60」を結成し、企業、行政、市民への提言を始めたところ。

バリから帰国後、竹内さんはその看板を「チーム・マイナス80」に書き換えました。

「それくらいやらんと、いかんでしょう」

ことしこそすべてが変わり、持続可能な新しい時代がひらけることを願いつつ。

コメント:

温室効果ガスが出るようになったのも科学技術の進展によるものだし、逆に温室効果ガスを出さないようにできるのもまた科学技術なのです


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北海道新聞(2008年1月 1日 付)

記事:

月探査衛星「かぐや」が、漆黒の宇宙の中に、青く美しい姿を映し出した地球が危機にある。

二○○八年は、主要国首脳会議(サミット)が、北海道洞爺湖で開かれる年だ。主なテーマは、温暖化から地球をどう救うかだ。 地球温暖化は、石炭や石油を用いて便利で快適な生活を追い求めてきた近代文明が、知らず知らずのうちにもたらした結果であり、ようやく深刻さが分かってきた。

今世紀半ばまでに、環境は激変する。このままだと人類が生き延びられるかどうかの瀬戸際にさしかかるのは、ほぼ間違いない。 しかし、現代の先進国に生きる私たちの多くは、気象などの異変を感じながらも、まだ、どこか人ごとのようにとらえているのではないか。

「自分の生きているうちは大丈夫だろう」。そうかもしれない。だが、子孫はどうなるだろう。 遠い将来のことではない。干ばつ、気温上昇、洪水などで、まず被害に遭うのは、貧しい国の人々だ。 言葉を発しない動植物は、すでに数多くの種が滅びたり、生存が危ぶまれたりしている。

*近代都市文明のおごり

米地質調査所によると、四十年後、いま二万頭いる世界のホッキョクグマが三分の一に減る。餌場である北極海の氷が、夏になると解けて、生息が難しくなるからだ。

ドイツ・ベルリン動物園に、母親の育児放棄で話題になったホッキョクグマがいる。名前はクヌート。愛くるしさで菓子や記念硬貨のモデルにもなった。 クヌートをかわいがる人間が、世界のホッキョクグマの運命に無関心でいられるだろうか。

ともに生きてきた地球の仲間が危機にある時、同情や痛みを感じないとすれば、おごりのツケは自らに回ってくるのではないか。 考えてみると「自然を守れ」という言い方は人間のおごりかもしれない。人間が自然に守られている、あるいは人間も自然の一部にすぎない-。遠い昔は広く共有され、いまもアイヌ民族などに残る思想だ。

そのように考えなくなったのは近代の工業・都市文明からだと言ってよい。地球環境を悪化させた要因は、消費をあおり、資源をムダ遣いして顧みない経済・社会の構造にある。

*温暖化が国際紛争生む

国であれ企業であれ、個別の利益が優先され、社会全体の利益は考慮されないどころか、かえって損なうことが往々にして起こる。また今日、国境を越えた投機的なカネの動きがこうした傾向に拍車をかけ、各国の中でも、世界的にも経済格差を広げている。これ自体がサミットの大きな課題だ。

「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)は昨年まで、四次にわたり報告書を発表してきた。 それによると例えば、二○五○年代のアジアでは、穀物収穫量が最大三割減り、一億三千万人が新たに飢餓状態になる恐れがある。 飢えや貧困の広がりは、資源をめぐる国際紛争につながる。

国連開発計画の報告書は、米フロリダ州のエアコン一台が一年間に出す温室効果ガスの量は、カンボジアの国民一人が一生かかって出す量より多い、と指摘している。

自分たちが豊かになっていないのに、先に発展した国のせいで、真っ先に温暖化の影響にさらされる。発展途上国には、理不尽な話だ。 しかし、いま先進国が享受しているのと同じスタイルの豊かさを、いずれは世界中が達成できる、と考えるのは難しい。

*国超えた世論の連帯を

だからこそ、資源を節約しつつ、先進国が途上国を資金・技術支援する仕組みが不可欠だ。 IPCC統合報告書は、今後二十-三十年の努力と投資が、地球の将来の鍵を握ると指摘した。これを受け、国連の潘基文事務総長は「科学者が声を一つに合わせた。次は世界の政治家の番だ」と述べた。 先進国と発展途上国、また先進国間でも対立する利害の調整を強く促したものだ。

先頭に立って汗をかくのは、サミットのホスト国で、国際協調のもとでしか生きられない日本でなければならない。従来のように模様眺めをしている場合ではない。そして政府や企業の背中を押すのは世論だ。各国の世論が連帯し、国家の利害を超えた、地球民主主義とも言うべき考え方が求められる。

世界各地で脱温暖化の住民運動が起きている。 家庭のごみを少なくする、地産地消を広げる、環境問題に不熱心な企業の製品は買わないなど、脱温暖化は一人一人の生き方にもかかわる。 一層の工夫が必要だし、負担も覚悟しなければなるまい。

 「高齢者は、自分がその下で憩うことのない木を植える」 二十世紀を代表する米国の評論家ウォルター・リップマンの言葉だ。 高齢者を「現代人」と置き換えてみよう。民主主義は、その時代に生きる者の幸せだけでなく、子孫の幸せをも視野に入れなければならない、ということだろう。

地球環境という共通の課題を通じて、人類の未来への「想像力」をめぐらせ、行動する時である。

コメント:

今、そこにある危機を危機として認識しないのは、いずれにしても人間の本能何でしょうか。
そういえば、地球温暖化がCo2をはじめとする温室効果ガスによるものということは、科学的にはっきりしたのでしょうかね。最近のアメリカ商業主義に押されてこのようなことを気にする人はいなくなってしまったのでしょうか。


出典:

usfl.com (2007年7月12日 付)

記事:

科学者らで組織する米国のシンクタンク「憂慮する科学者同盟」は11日、地球温暖化を引き起こす温室効果ガスの排出を大幅に削減しなければ、現在は100年に一度の頻度で起こる大洪水が今世紀末には東部で珍しくなくなり、ニューヨークでは平均10~22年ごとに発生するようになると予測した報告書を発表した。

報告書によると、温暖化に伴う海面上昇により、ボストン(マサチューセッツ州)やアトランティックシティー(ニュージャージー州)では今世紀末、現在は100年に一度の程度の頻度で起こる大洪水がほぼ毎年起こると見込まれる。

最大の都市ニューヨークでの大洪水の予測頻度はこれより低いが、海岸線に沿って人口が集中し、保険に入っているニューヨーク州沿岸地域の資産も総額1兆9000億ドルに上るため、甚大な被害が懸念される。

コメント:

インデペンデンス・デイの世界ですね。でも「ヒトゴト」では無いです。


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